Dark to Light
                                
                     8


夏休み。
俺はほぼ毎日海昊かいうさんと轍生てつきBADバッドの連中と一緒に過ごしていた。
7月31日。
海昊さんは私的な用事で横浜に行く。と、言っていたのを勝手に付いてきた。

先頭、海昊さんのROAD STARロード スター。俺のEX-4イーエックスフォー、轍生のDR800S。
千鳥走行で走る。

 「首都高……ですか?」

海昊さんは、国道1号線に乗る前の赤信号でフルフェイスのシールドを開けた。
隣に並ぶと、首都高速神奈川3号狩場線に入る。と、言った。
横浜駅へいくのなら、国道1号線そのままで着く。

 「駅でゆうたら、根岸駅……ワイの友人のお兄さんのな、三回忌にあたる日ぃなんや。」

え……。
海昊さんが恐縮して言った。
すみません。と、口にした俺に付き合わせてすまん。と、逆に海昊さんは謝った。
どうやら目的地は根岸墓地。らしかった。

高速道路を下りて、下道を南下する。
次の信号で止まった時に訊いてみた。

 「……でも、海昊さん。こっちに知り合いが?」

 「友達が、事情あって、大阪……ワイと同じ学コやったん。実家は神奈川なんや。」

へぇ。と、相槌。詳しくは訊かなかった。
途中で花束と線香を買った。袋に入った線香を預かり、左手にぶら下げた。
墓地の入口。

 「……氷雨ひさめさん。紊駕みたか……?」

海昊さんが驚いた様子で口にした。
見れば、駐車場に、あおいさんのHONDAホンダ CB400FOURシービー ヨン フォア如樹きさらぎさんのKAWASAKIカワサキ ZEPHERゼファー
滄さんも気が付いて振り向いた。海昊?と、呟いた声は、予想外という雰囲気を醸し出している。
さらに、滄さんの同期、BADの皆城 造みなき みやつさんと、須粋 斗尋すいき とひろさん。

 「なんで、お前ら……?」

俺らを見回した滄さん。
お墓参りに。と、海昊さんが返答して、そりゃそうだろうけど。と、如樹さんが突っ込んだ。
こんな所で、BADのメンツ7人も揃うなんて。
偶然。そして、何と目的のお墓も……。

 「……龍条 立かみじょう たつるさん。今日、命日やから。」

 「何で、知ってんの。」

墓には、龍条家。と、彫られていた。
その側面、龍条 立。享年18とある。
どうやら海昊さんと滄さんたちの知り合いらしいが、互いにそれを知らなかったようだ。

 「大阪での友人のお兄さんなんです。」

海昊さんの言葉に、そっか。と、滄さん。
納得するように頷いて、妹が大阪にいるって言ってたっけ。と、独りごちた。
……妹。
勝手に男だと思っていたから、ちょっと意外だった。
海昊さんを見ると、少し照れたように懐かしむように話し出した。

 「その子、ワイの恩人やねん。今のワイがあるの、その子のおかげやと思うてはる。……ワイ、立さんの死に目に会うたんです。……すごく。いい笑顔、してはりました。」

滄さんは、そっか。と、また頷いて、お墓に花を添えた。

 「立は、THE ROADロードの頭だったんだよ。」

海昊さんは、相槌をうった。

 「立のコト、俺はすごく尊敬してた。もちろん、今もだ。……THE ROADに居た頃は、俺、すげぇガキでよ。」

 「今もだけどな。」

如樹さんの突っ込みに、うるせ。と、滄さんは笑って続けた。

 「立に迷惑ばっかかけてて……ずっと、病に侵されていた立のコト、何一つわかってやれなかったんだ。」

 「そんなこと、ねぇよ。」

斗尋さんが否定する。俺たちだってそうだ。自分を責めるな。と、造さん。
滄さんが礼を言う。真っ青な大空を見上げた。
今の自分と同じ年で亡くなった龍条さんに想いを馳せているのだろう。
18。か。短すぎる。でも、一生懸命生きたのだ。と、海昊さんや滄さんたちの話から伝わった。

 「きっと、立さんがワイらを導いてくれたんですね。」

 「ああ。……俺、紊駕に出会えたのも立のおかげのような気ぃすんだよな。」

どんな経緯かは、知らない。
如樹さんは一笑に付したけど、斗尋さんも造さんも穏やかな顔で笑っていた。

それなら、俺が海昊さんに出会えたのも、龍条さんのおかげ。かな。
俺は勝手に思う。
海昊さんが大阪から家出をして、神奈川を選んだ理由。
その友人に江の島に連れてこられたことがあるからだ。と、言っていたからだ。

それから、線香を焚いて、手を合わせ、故人を偲んだ。
滄さんたちの会話から、龍条さんって人が、どれだけ尊敬されていたのかがうかがわれた。
きっと、その想いが今のBADへ繋がっているのだ。

 「……滄?」

帰路に向かおうと、滄さんが手桶とひしゃくを手にした時だった。

 「……箜騎こうき。」

今度は、久しぶりという雰囲気の滄さんの声音。
斗尋さんと造さんも、おう。と、手を上げた。
後ろから花束をもった3人の男。皆、笑顔で応えた。

その場で自己紹介。
茶色の短髪で爽やかイケメンの貲 箜騎たがら こうきさん。
黒髪をムースでツンツンと立たせた細目の戸崎 保角とさき ほずみさん。
脱色された長めの髪、小柄な永真 修ひらま ながきさん。
皆、滄さんと同期の高3だという。

 「久しぶりに、寄れよ。俺ら、まだ横浜ハマで走ってんよ。」

黒の革ジャン。保角さんは、自身の背中を見せるように指さした。
YOKOHAMAヨコハマ BAYベイ ROADロード

 「あんま、名前売れてねぇだろ。」

箜騎さんは、爽やかな笑みで、言って、THE ROADの引継ぎって感じでやってる。とはにかんだ。

 「悪ぃな、滄に何も連絡しなくて。」

 「何いってんだよ。言う必要なんてねぇだろ。そっか、箜騎、頭やってんのか。」

滄さんが、穏やかにいった。保角さんと修さんがうなづいた。
皆、同じ革ジャンを着ている。

 「ああ。……滄は、有名だぜ。ほら、BLUESブルースまくったって。BAD。だろ。」

箜騎さんは、滄さんに言って、如樹さんと海昊さんを見て、名前を言い当てた。
すげぇ。横浜でも有名人だ。

 「……なんか。滄、変わったな。雰囲気っつーか。すげぇ、穏やか。充実してるつー顔。」

 「こいつらのおかげだ。」

滄さんは、俺らを見回して笑った。
何だか、嬉しかった。

それから、俺らは、YOKOHAMA BAY ROADのヤサ―――横浜山下埠頭へ。
滄さんと斗尋さん、造さんは懐かしむように横浜の風を受けていた。
湘南の潮風とは違う、港の、ちょっと機械油が混じったようなそれ。
レトロで歴史を感じさせる建物と公園の爽やかな緑。

埠頭の倉庫街。
その一角がYOKOHAMA BAY ROADのヤサだった。
オレンジ色の街頭が灯り、夜の帳が降りる頃、たくさんのバイクが集まってきた。

他の族だから。とかそんなのは全く関係なく。
俺らは夜中語り合った。
たくさんの知り合い。仲間が増えていった。
なんだか、龍条さんも喜んでいるような気がした―――……。



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